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原先生に伺いました!~コミュニケーションの一歩を踏み出そう~

【Prologue~プロローグ~】


小児科医の原朋邦先生(埼玉県・はらこどもクリニック院長)には活動を通じてたくさんお世話になってきましたが、忘れもしない出来事があります。

それは2009年の外来小児科学会春季カンファレンスでのことです。
私は、「知ろう小児医療 守ろう子ども達の会」について、小児科の先生方の前で発表する機会をいただいたのですが、お話した後、座長の原先生はこんなことをおっしゃったのです。

「阿真さんは大変柔らかい口調で、我々小児科医が涙を流してしまうようなお話をされましたが、一方でとても厳しいことを言っておられる。『私たち親も子どものことをちゃんと見るし、勉強もするから、医師であるあなた達も、ちゃんとしなさいよ、ちゃんと診なさいよ』と。」

この言葉は、今でも私の胸に深く刻み込まれています。
患者も医療者も、お互い学び・努力する。そこから始まるものがあると、感じたのです。

●コラム 原先生に伺いました!~コミュニケーションの一歩を踏み出そう~

私は「病院に行く前に知っておきたいこと」の本の監修を、以前より尊敬の思いを持っていた原先生にお願いしたいと思っていました。
ご多忙にもかかわらず先生からは「拝見することは喜びです」のお返事。後日、私は原稿を携え、先生のもとを訪れました。

訪問した当日、先生は保育園での健診業務から戻ってきたところでした。毎回の健診で、たくさんの保護者から寄せられる質問メモに対し、先生は一つ一つ書いて回答していることを知りました。口頭で伝えるよりも倍の時間がかかるそうですが、親の不安を解消するために非常に大切なことを継続されていると感じました。

原先生が医師になられた昭和30年代は、多くの患者たちが医師の診察を「神のお告げ」のように敬う風潮がありました。しかし原先生の師匠・A先生は、「帰宅後は○○に注意するように」などペンの色を変えてわかりやすくしたメモを全患者に渡し説明していたそうです。
患者と真摯に向き合う師匠から医師としての在り方を学んだ原先生は、患者である子どもや親とのコミュニケーションを大切にしてきました。親には「何でもいいから子どものことを書いてきて。今日は元気だった、それだけでもいいんだよ」「文章になってなくても大丈夫。そのままを見せてくれたらいいよ」とやさしく声をかけて診察しています。このような患者とのやりとりを「忙しいから無理」「そんなことをされては比べられて迷惑」ととらえる医師もいたそうですが、一方で「原先生は素晴らしい」「私も真似します」と賛同する医師もたくさんおられたといいます。

保育園での定期健診で原先生は、毎回「今の体重で大丈夫ですか?」「この傷は治りますか?」「言葉が遅れているように感じるのですが…」など、保護者から様々な質問を受けるそうです。子どもが小さいうちは、予防接種や健診、ケガや病気などで小児科にお世話になる機会は多いですが、大半の親たちはかかりつけ医に普段から抱えている疑問や不安について聞けていない現実があるようです。そんな保護者に向けて先生は「日頃の心配ごとをメモしておいて、診察時に医師に見せるといいよ」とアドバイスしています。

 先生から聞いたある中学2年生の女の子のエピソードです。診察終了時に、その子が黙ったまま「このメモを読んで」とジェスチャーで伝えてきたことがありました。メモには「クラスで自分だけ生理が来ていない。大丈夫でしょうか」と不安な気持ちが。先生が「もうすぐ来ると思うよ」と伝えたところ、次に会ったときに「あった!あった!」と嬉しそうに報告してくれたそうです。医師とのやり取りの中で、口では言いにくい場合にもメモは役に立つのですね。遠慮や緊張で医師に尋ねる機会を逸しがちな大人に比べ、子どものほうがコミュニケーション上手かもしれません。

最近の教科書は、患者とのコミュニケーションについてよく書かれているそうです。そのため医学教育課程においても、かつては重要視されていなかったコミュニケーションに重きを置かれているそうです。しかし、そのような教育の乏しい年代もあったため、患者への説明や態度が説教的になっているところもあるとか。原先生は「相手(患者やその家族)がわかるように話さなければ、説明していることにはならない。(配慮して)説明すべきは医療者にあると思う」と指摘します。

ご著書『トントン先生の乳幼児健診』には、原先生がどの親も子どもを育てるうえで非常に多くの不安を抱えていることをしっかりと感じ取りながら診察されている様子がつづられていますが、私は今回、先生を訪問し、医師が常に患者一人一人に対して丁寧にコミュニケーションをとっていることに強く感動しました。原先生は医師の責任として「説明すべきは医療者にある」と話してくださいましたが、患者側もそれを待つのではなく、勇気を出してメモや口頭で聞きたいことを言葉に表現することが大切と感じました。もちろんコミュニケーションの一歩を踏み出すのは、医療者側でも患者側でもどちらが先でもいい。一歩踏み出すことで、医師と患者の間には今までよりずっと良いコミュニケーションが生まれるのでしょう。

2021年3月2日配信

原先生の「メモの大切さ」のお話は、「病院に行く前に知っておきたいこと」23ページにも掲載されています。ぜひお読みください。

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