国立国際医療研究センター国際医療協力局
「子どもの救急医」
井上 信明
子どもが嘔吐してしまったとき、親御さんは心配になることでしょう。
すぐに受診すべきか、家庭で様子をみてよいのか、
注意すべきポイントと家庭でのケアについてご紹介します。
子どもが嘔吐する原因は様々であり、年齢によっても考えるべき原因が異なるため、
一概に述べることはできませんが、次のような原因が考えられます。
・感染性胃腸炎(ウイルス性胃腸炎や細菌性胃腸炎など)
・腸閉塞(腸重積)、尿路感染症、頭蓋内感染症などの病気
・頭部外傷
・アセトン血性嘔吐症
・食物アレルギー
・溢乳
・薬剤などの誤飲 など
お子さんがぐったりしているとき、脳へ十分な糖分や酸素が運ばれていない可能性があります。
このような場合、脳が正常な機能を果たせない重篤な状態である危険性があり、注意が必要です。
★★★危険な兆候
・激しくお腹を痛がる
・嘔吐物に血が混じっている
・嘔吐物の色が濃い緑色である(胆汁性嘔吐といいます)
★★重篤な状態である可能性
・顔色が悪い
・意識がおかしい
・眠ってばかりいる
★注意が必要
・便に血が混じる
・生後間もない赤ちゃんの場合は慎重な対応が必要
ご自宅では、吐いた後のお子さんがどのような状態か、
どのようなものを吐いたか、何度も吐いていないか、
脱水症状(皮膚のはりがない、汗・涙・おしっこなどが出ない、
舌や唇が乾いているなど)を起こしていないか、などをよく見ておくことが大切です。
お腹いっぱいに食べたり飲んだりした直後や、食後すぐに遊び始めたときに嘔吐した場合は、
食べ過ぎや物理的におなかが圧迫されたことが原因である場合がほとんどです。
また、吐く直前になにかを咥えていたならば、反射性の嘔吐も考えられます。
基本的には、嘔吐を繰り返すことがなく、熱もなく、顔色も悪くない、
前項にあるような他の症状が見られない、吐いた後も「元気」「機嫌が良い」場合などは、
慌てて病院を受診する必要はなく、ご自宅で様子をみてもよいといえるでしょう。
いずれにしても、最も頼りにできるのは親御さんの直感だと考えています。
親御さんが「様子がおかしい」と思ったら、躊躇( ちゅうちょ ) せずに病院を受診してください。
また受診の際は、以下の内容を伝えていただくと、症状の判断に役立ちます。
・嘔吐をはじめた日時/最後に吐いた日時/吐いた回数
・吐いたものの特徴は?
(例:酸っぱい匂いがする・ウンチの匂いに似ている・コーヒーの残りカスのよう・
黄色あるいは緑色の吐物 など)
・最近、旅行に行きましたか?
・最近、なまものを食べましたか?
・周囲に吐いている人はいますか?
・頭を打ちましたか? 大きなけがをしていませんか?
・薬を誤って飲んだ可能性はありますか?
・オムツを何回替えましたか? または何回おしっこに行きましたか?
吐いた直後は胃を休ませるため、30分~1時間はなるべく飲食物を与えないようにしましょう。これは、吐いた直後にたくさん飲食すると、また吐いてしまう可能性があるからです。
●水分の与え方の注意点●
嘔吐すると水分を受け付けなくなり、長時間嘔吐していると脱水状態になる可能性があります。
そのため、水分を適切に補給させることが大切です。
ぐったりしていたり、尿の量が減ってきたりしたら、脱水が進行している可能性が考えられます。
逆にいえば、たとえ吐いてしまった後でも、喉の渇きを訴えず、
元気そうであれば脱水の心配はありません。
嘔吐後の容態が安定しているようならば、後述する「経口補水液」を
少量(1回あたりスプーン小さじ1杯分あるいはペットボトルのキャップ1杯分)ずつ与えます。
目安として、体重10キロのお子さんであれば500㏄のペットボトル1本分を4時間かけて飲ませるくらいのペースが適切です。
それでも吐き続ける、あるいは下痢が止まらず脱水が進行するような場合は、
さらに追加して水分を摂取させましょう。
体重10キロ以上のお子さんであれば、嘔吐や下痢をするたびに150㏄程度飲ませてあげることで
脱水の進行を防ぐことができます。
水分は、ただの水やお茶よりも、塩分などの電解質を含む物のほうが望ましいと考えられます。
市販のものであれば薬局やドラッグストアなどで売っている、
塩分や糖分が調整された「経口補水液」がおすすめです。
「経口補水液」は自宅でも作ることができます。
一度沸騰させた水1リットルに対し、塩3g(小さじ1/2)、砂糖40g(大さじ4と1/2)を、
溶けるまでしっかりと混ぜると完成しますので、手軽に出来ます。
お子さんが飲みにくいと言う場合は、レモン汁などを加えると飲みやすくなります。
水分を与えても嘔吐しなくなったことを確認したら、おかゆ、柔らかいパンなどを与えます。
消化に時間のかかる肉類や繊維質の多い野菜類は、しばらく控えたほうが無難です。
また、乳製品を摂取することで下痢がひどくなることもありますので、
乳製品を摂取してお腹の調子が悪くなるようであれば、控えるようにしましょう。
その他、糖分の多いジュースなども下痢を引き起こしやすいため、飲ませないほうがよいです。
※いずれの方法でも、吐いたものがのどに詰まらないように、
仰向けに寝た状態で嘔吐したときは、横を向かせましょう。
【最後に】
嘔吐の最も多い原因は、ウイルス性胃腸炎を代表とする感染性胃腸炎です。
胃腸炎では通常、胃の動きが停滞し、嘔吐が始まります。その後、炎症が腸に及ぶと下痢が始まります。
胃腸炎による嘔吐は、吐き始めた頃に回数が最も多くなることが一般的で、次第に下痢が始まります。
頻回に吐く状態が何日も続くわけではありません。
ご自身の子どもが吐いてしまうと、親としては当然不安になるでしょう。
しかし、胃腸炎であれば数日もすれば自分で飲んだり食べられるようになるため、
大きな心配はいりません。
とはいえ、上記に挙げた方法を行っても吐き続ける場合は点滴が必要になることもあります。
そのような場合は、病院を受診したほうがよいです。
なお、周囲への感染力が強いため、お子さんの嘔吐物や排泄物を触った可能性がある場合は、
家族もしっかり石けんでの手洗いをするなど、感染予防対策をする必要があります。
胃腸炎であれば、基本的には心配いりませんが、嘔吐は原因を特定することが難しい症状のひとつであり、
中には重症な病気が原因となっていることもあります。
私たち小児救急に従事する医師は、「吐いている=胃腸炎」と安易に考えず、
想定しうる様々な重症疾患を除外するために問診と診察を行い、重症疾患を見逃さないように努めています。
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