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子どもが頭を打った~病院に行くべきか、行かなくてよいのか~

松戸市立病院 小児脳神経外科
宮川 正先生

ちょっと目を放した隙に、こども達は転んだり、落ちたりして頭を打つことがよくあります。そんな時、病院へ連れて行ったほうが良いのか、そのまま様子をみていて良いのか、保護者は、悩むことがよくあるでしょう。

この稿では、これまでに報告されている研究を基に、こどもが頭を打った時、わたし達大人はどう行動すればよいのか、そのヒントを記載してみました。

こどもの頭に外傷が加わる、と言ってもそのパターンは1つとは限りません。
そこで、【1】年齢【2】けがの仕方(受傷機転といいます)【3】症状や状態【4】受診のタイミングの4つの項目に分けて考えます。

【1】年齢

まず、ⅰ)2歳未満ⅱ)2歳以上に分けて考えます。
言葉で症状を伝えることが出来るかという観点から、通常2歳を目安に線を引きます。

【2】けがの仕方

受傷機転は、A)軽度 B)中等度 C)重度の3つに分けます。

軽度の受傷機転とは…
足が地面や床についた状態からの転倒や止まっている物へ頭をぶつけたといったものです。
つかまり立ちをしていて後ろに倒れたとか、歩いていて机の角に頭をぶつけた、などは
軽度の受傷機転に入ります。

重度の受傷機転とは…
衝突の時車外へ放り出された交通事故や同乗者が死亡した交通事故、ヘルメットをかぶっていない状態で車と衝突した歩行者や自転車の乗車者、2歳以上なら1.5m以上、2歳未満なら0.9m以上からの転落、などです。

転落の場合、2歳を区切りにして、高さが異なることに注意して下さい。
頭蓋骨の硬さが違うためです。

ちなみに階段ひとつは20cmとして計算します。
5段目から転落した場合、1mの高さから転落したことになり、2歳未満は重度の、2歳以上は中等度の受傷機転となります。

中等度の受傷機転とは…AとC以外と考えます。

【3】症状や状態

症状や状態はいろいろな項目がありますが、次に示す6つの項目をよく観察して下さい。
軽症頭部外傷の時にCTを撮るべきかどうか、を研究した『PECARN』という研究を基にした6つの危険因子です。

【6つの危険因子】
■2歳未満では・・・

①なんとなく意識がおかしい
②おでこ以外の部分にこぶ(皮下血腫)ができているか
③5秒以上の意識消失
④重度の受傷機転
⑤触って分かる頭蓋骨骨折
⑥親から見ていつもと違うのか、をみます

■2歳以上では・・・

❶なんとなく意識がおかしい
❷一瞬でも意識消失があったか
❸吐いたか
❹重度の受傷機転
❺眼や耳の周りが黒くなっていないか
❻強い頭痛があるか、をよく観察します

少し詳しく見てみましょう。

①と❶の『なんとなく意識がおかしい』とは、眼が合わないとか、言っていることのつじつまが合わないなどの意識の内容が変化している時も当てはまります。

②の『こぶ』は皮膚の下にできた血腫です。
それが、おでこ以外にある場合、骨折や頭蓋内血腫に関連している可能性があります。

③と❷の『意識消失』ですが、2歳未満は5秒以上の、2歳以上は一瞬でも意識消失があれば受診が必要です.

⑤についてですが、頭を打った時はよく頭を触ってみてください。凹んでいるとか、溝があるとかが当てはまります。

⑥の『親から見ていつもと違うのか』は、おしゃべりができないこどもの場合、これが一番役に立ちます。なんとなくいつもと違うといった印象が大切です。

❸についてですが、2歳以上の場合、一度でも嘔吐があればCT撮影を考慮します。

❺についてですが、眼や耳の周りが黒くなるのは頭蓋底に骨折がある時に出現します。透明な液体が鼻や耳から出ている場合も受診が必要です。

❻についてですが、耐えられないような強い頭痛がある場合はやはりCTを撮ったほうが良いでしょう。

『PECARN』では、2歳未満のお子さんで①から⑥の項目が一つも当てはまらないのに、手術を含めた濃厚な治療をしなければならなかった確率は0.02%以下でした。我々が日本のこども達を対象に同様の研究を行った結果は0.7%でした。

つまり、①から⑥あるいは❶から❻の項目の中でひとつも当てはまるものがなければ、まず大丈夫と考えるのが現実的です。

逆に、①から⑥あるいは❶から❻の中で少なくともひとつ当てはまる項目があれば、CT撮影が必須あるいは推奨されるということになります。つまり、医療機関受診が必要です。

担当医に「PECARNの6つの危険因子のうち、どれとどれが当てはまります」と伝えてみてください。
家族と医療者が協働して築く、質の高い医療ができるはずです。

【4】受診のタイミング

それでは時間的にはどの時点で判断すれば良いのでしょうか?
頭を打った場合、24時間、特に最初の6時間は気をつけろと言われています。何らかの症状が出るとしたら、6時間以内に出ることが多いからです。

つかまり立ちをしていて転んだ、ソファーから落ちたなどのA)軽度の受傷機転の場合、
すぐに医療機関を受診する必要はなく、①から⑥あるいは❶から❻の項目を中心に数時間程度経過をみるのが良いと思います。

頭を切ったりして出血している場合、落ち着いて止血を行い、血が止まってから医療機関を受診して下さい。顔や頭は血流が豊富なため、ちょっとの傷でも出血が多いことがありますが
慌てる必要はありません。

2022年10月6日配信

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