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「知っていれば防げる!先天性股関節脱臼」 

信濃医療福祉センター 所長 朝貝芳美

生まれつきの病気ではない?

先天性股関節脱臼という病名から、生まれつき股関節に脱臼があると思われていますが、生まれたあとから悪くなることが多くおむつの当て方や扱い方で赤ちゃんの下肢の動きを妨げないようにすれば、悪くなるのを防げる疾患です。

少子化で股関節脱臼の赤ちゃんも少なくなり、1000人に1人~3人程度となりました。少なくなったのは良いことですが、乳児健診でも保健師や担当医師の股関節脱臼に対する関心が薄れてしまい、健診体制が弱体化した地域もあります。しかし消滅した疾患ではありません。

近年、歩き始めてから股関節脱臼と診断され、診断が遅れたことで治療に難渋する例が、全国で年間100人程度みられることが日本小児整形外科学会の調査で明らかになりました。先人が1970年代の股関節脱臼予防活動で脱臼を減少させたように、再び予防活動を活発に行う必要があります。

おむつの当て方・扱い方のポイント

おむつの当て方や扱い方のポイントは、赤ちゃんの下肢は「かえる」のように広がった状態で活発に動かしているのが普通の状況です。おむつや、衣服で股・膝関節を伸ばした状態にすると脱臼しやすくなります。冬に生まれた赤ちゃんは、衣服で足を伸ばした状態でくるまれ、脱臼が多くなることも知られています。「ベビースリング」や「おひなまき」などの育児法でも、下肢を伸ばさないように十分に注意する必要があり、赤ちゃんの下肢は自由に動かすことができるようにしておくことが大切です。

また片側の後頭部が扁平となるような強い向き癖(顔が右あるいは左を向いている)があると、顔が向いた方に体が捻じれて、反対側(右向きであれば左側)の股関節の開きが悪くなり、脱臼しやすくなることがあります。生まれてすぐから向き癖に注意して、寝かせた時に体が捻じれないようにする工夫や、コアラ抱っこで股関節を開いて扱うようにしましょう。

早期発見・早期治療で治療が可能な病気

また、股関節脱臼は早期発見・早期治療で治療が可能な病気です。生後3か月頃の股関節健診を受けましょう。しかし健診で股関節の開きをチェックするだけでは、すべての脱臼を診断することができません。診断はX線検査だけでなく、近年では放射線被曝のない超音波検査でも診断可能であり、股関節脱臼の心配があれば超音波診断を受けることが理想的です。

長野県下諏訪町では、平成4年から費用は町が負担し、町で生まれた乳児全員に生後3か月で股関節超音波検診を実施し、脱臼だけでなく脱臼準備状態である亜脱臼や臼蓋形成不全も早期に診断し予防や早期治療により、治療に難渋する股関節脱臼「0」の町を実現しています。新潟市や島根県江津市などでも超音波検診が実施され、徐々に全国各地に広まってきています。生後3か月頃に超音波診断で異常がなければ、1回検査を受けるだけで、以後に脱臼することはなく安心できます。しかし超音波で診断のできる病院が少ないのが現状です。

動画やパンフレットで確認を!

シルミルマモルという「子育て医療情報動画サイト」で「早期発見赤ちゃんの病気 股関節脱臼」のアニメーションも作成しました。なおアニメーションはYouTube「赤ちゃん 股関節脱臼」でも検索できます。

コアラ抱っこや向き癖の対応など、詳しくは日本小児整形外科学会のホームページに以下の「乳児股関節脱臼予防」パンフレットが掲載されています。どなたでもダウンロード可能です。

乳児股関節脱臼予防(画像を大きく表示

股関節脱臼検診の重要性が見直され、生まれてすぐからの予防や一次健診でのチェック体制は以前より整ってきており、アニメーション動画も各地域の新生児訪問などの際に広く活用されております。

今後も、全国の保護者にこのパンフレットや動画を見ていただき、股関節脱臼で苦しむこどもが1人でも少なくなることを願っています。

2021年11月15日発行

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