かるがもクリニック(東京・世田谷区) 小児科医・宮原篤
お子さんが生後3ヶ月になって接種するワクチンの一つに、三種混合ワクチン・四種混合ワクチンがあります。内容は、三種混合ワクチン(DPT)がジフテリア(Diphtheria)、百日咳(Pertussis)、破傷風(Tetanus)です。四種混合ワクチンではこれにポリオ(IPV)が混ざります。
百日咳やポリオは最近話題にもなりましたが、ジフテリアや破傷風はそれほどご存知ない方もいらっしゃるかもしれません。しかし、破傷風は土があるかぎり日本でも発生し続けますし、2011年の東日本大震災では被災者やボランティアによる破傷風発症が目立ちました。最近の災害でも同様なことが起きています。
今回は、破傷風について取り上げてみます。
破傷風は、土の中にいる破傷風菌が出す神経毒素によって起こります。神経毒素は脳や脊髄の神経に作用し、ひどくなると全身の筋肉麻痺や強直性痙攣を引き起こします。痛みも伴います。
こちらは破傷風の有名な絵です。全身の筋肉が硬直し背中が反り返っています。後弓反張(こうきゅうはんちょう)といいます。
初期症状として口が開けにくくなる牙関緊急(がかんきんきゅう)というものがあります。口の筋肉が痙攣(けいれん)してあかなくなり、歯をくいしばるようになるのです。
「震える舌」という映画でも破傷風を取り扱っています。破傷風の怖さというのが分かります。
(閲覧注意)https://www.youtube.com/watch?v=zaqEN6JjFa4
呼吸困難が続いた場合は、残念ながら亡くなることもあります。
破傷風の特徴としては脳には影響がないので、意識がはっきりとしていることです。意識がはっきりとしたままこのような症状を起こすのは、本当に辛そうです。
自然に免疫がつくことがない破傷風の対策の一つは「破傷風菌」に触れない事です。しかし、程度の差はあれ土には必ず破傷風菌が存在します。破傷風は、世界中の土や動物のフンなどに破傷風菌がいるので、誰でも破傷風にかかる可能性があります。「破傷風菌は空気を嫌う嫌気性菌だから、空気があれば感染しない」という人もいたようですが、これは正しくありません。環境が変わると破傷風菌は「芽胞」というものに姿を変え、空気に触れても煮沸しても死ななくなります。やはり、一番の対策はワクチンでしょう。
子どもの場合は一般的には三種混合ワクチン(四種混合ワクチン)を合計4回接種します。その後DTワクチン(ジフテリア・破傷風)を、11歳から接種します。破傷風の免疫は10年ほど期待できます。
ですので、本来は10年おきにDTワクチンもしくはDPTワクチンをまたは、後で書く成人用三種混合ワクチン(Tdap)を接種するのが望ましいです。
問題になるのは、今まで接種してこなかった方々です。国立感染症研究所からの文章を一部引用します。
http://idsc.nih.go.jp/vaccine/cQA012.html
1940 年代後半から1950 年代前半にかけて、ジフテリア、百日咳単味ワクチンが接種されるようになり、その後、ご質問にありますDPワクチンが1950年代後半から接種されるようになりました。その後1964 年(昭和39 年)からはDPT ワクチンの使用が一部で始まり、1968年(昭和43年)からは、DPTワクチンが多く用いられるようになっています。ただし、この頃のワクチンは全菌体百日咳ワクチンを含むDPTワクチンであったため、副反応が問題になったことと、死亡例がみられたことなどから、厚生省は1975 年(昭和50年)2月1日に、百日咳ワクチンを含む予防接種の一時中止を指示しています。一部の地域ではこの頃、DTトキソイドを用いていたところもあるようですが、具体的にどこが使用していたかはわかりません。(引用以上)
その他、予防接種被害報道も重なり、昭和50年前後の三種混合ワクチン接種率自体も減りました。ご自身の予防接種歴を母子手帳などでご確認ください。紛失した・あるいは接種が未完了の場合は、はじめから打ちなおしたほうがいいかもしれません。いつ災害、事故に巻き込まれるかは誰にもわからないのです。
破傷風トキソイド(またはDTワクチン)は、基礎免疫は3回(0,1ヶ月、6-18ヶ月)で接種します。百日咳の抗体を付けたい場合は、輸入品になりますが成人用三種混合ワクチン(Tdap)を接種してもいいでしょう。また、最近になり子どものDPTワクチンが、大人でも接種できるようになりました。
もちろん、土に汚染された可能性のある傷で深く汚染された場合は、まずは傷口を洗い流し、ワクチンをしていても医療機関に行くことが大切です。古釘を踏んでも感染のリスクはありますし、意外なところでは動物に噛まれても感染することが有ります。野生動物は食べ物を食べるときに土も口の中に入るのです。 定期接種が未接種あるいは接種歴が不明の場合は、積極的に、破傷風トキソイドなどを接種することを検討しましょう。また、自分自身や家族が、いつ何回破傷風トキソイド接種を受けたのか、記録しておくことも大切です。
2022年10月11日配信
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