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子どもと発熱

はらこどもクリニック 院長 原 朋邦

そもそも体温とは?

ヒトの体の温度は測定部位によって異なります。体内の深部温度を「体温」と言い37.5~37.8℃の狭い範囲で一定に保たれています。深部温度は容易には測定できないので、便宜的に肛門内、口腔内、腋窩(脇の下)で測定されますが、この順番に体温に近いのです。体温が上昇する際、自分で体温を高く保っている場合を「発熱」、コントロールが出来なくなり結果として上昇してしまった場合を「高体温」と言います。

発熱とは?

ヒトの体には、ウイルスや細菌のような異物が侵入した時に、異物と認識して「活性物質」というものを産生する細胞があります。「細胞が作る活性物質」という意味で、「サイトカイン」と言いますが、体温を上昇させる働きを持つサイトカインを「発熱サイトカイン」と言い、現在5種類くらいが判明しています。それは、中枢神経内にある「体温の調節中枢」に働きかけます。体温の調節中枢が司っている温度を上昇させるのです。体は、いわば中枢神経の指令に従って体温を上昇させるように反応し、手足を流れる血液を減らしたり、表皮を流れる血液を減少させ、熱を失うのを減らすようにします。従って、手足は冷たくなり皮膚は青ざめます。それでも指令の体温に達しないと、体を震わせて熱を作ります。これが「悪寒・戦慄」の状です。本人は寒さを感じています。中枢神経の指令以上の体温になると、今度は熱を失わせて、一定に保とうとしますので、手足は暖かくなり、皮膚の血色がよくなります。

“発熱”は冷やさない

体が体温を上げるようにしているときに、体全体または一部を冷却すると、もっと体温を上げるように体は反応しますので、かえって体温が上昇することになります。発熱時にけいれんを起こすこどもは約10%いますが、体を冷やすと、けいれんを起こす可能性を高めます。中枢神経が熱を失わせようとするタイミングでは、冷やすと気持ちがよいかもしれませんが、冷やしすぎると体温の上昇を誘発します。だから、発熱のケアとして冷やすということのメリットはありません。もうずいぶん前から、アメリカの小児科学や小児看護学の教科書には「冷やすな」と書かれています。中枢神経が熱を失わせようとするのが妨げられると、かえって体温が上昇するからです。

“高体温”は冷やす

環境の温度が高い、湿度が高くて体の表面から水分を蒸発させることで熱を失うことができない。あるいは、運動などで体の中の熱を上昇させることが起きている、といった要素が加わると、体温をコントロールできない状態「高体温」になります。体調が悪くなれば「熱中症」と呼ばれます。この場合には、生命の危険も迫ってきますので、体温を下げる必要があり、冷却することしか方法がありません。高体温の場合には「冷却」がケアの基本です。ヘビ、カエル、カメなどの動物は、環境の温度に体温を合わせて生きており、変温動物と呼ばれます。変温動物に病原体を注射などで体内に入れて飼育の設定温度を色々変えて観察すると、あるところまでは飼育温度(すなわち体温)が高い方が救命率は高くなります。つまり、体温が高い方が生体には有利なのです。

発熱と自然免疫

サイトカインは必ず二つ以上の機能を持っています。「発熱サイトカイン」は同時に「自然免疫」を動員させる働きも持っています。「発熱サイトカイン」が産生されることは、体の防御反応であると理解されています。実際に、肺炎球菌ワクチンを接種した後に発熱を伴う人の方がそうでない人よりも抗体の上昇率がよいことがわかっています。発熱は病気であることのサインではありますが、病原体が侵入した時に起こる有利な反応とも考えられ患者さんの状態が悪くなければ、急いで解熱を図る必要はないことを意味しています。

発熱時の水分補給は?

発熱の初期には、脳下垂体で産生される「抗利尿ホルモン」(利尿を妨げる働きをするホルモン)の分泌促進が起こります。体温が高くなると「脱水になりやすいから水分を多く与えるように」と言われますが、初期にはこのホルモンの作用で口渇がすぐには起こりませんので無理に急いで水分を与える必要はありません。水分が必要になると口渇が起こりますので、子どもさんの要求に応じてあげればよいのです。

解熱について

とは言うものの、発熱はメリットだけではありません。消費カロリーは体温が1℃上昇すると12%増えると言われています。水分の蒸発も増します。もともと体の細胞にある酵素の至適温度は「体温」ですから、発熱状態では酵素の働きも悪くなる可能性があります。状態によっては解熱を図る方が有利な場合があります。その際には「アセトアミノフェン」が用いられます。この薬剤は酵素に働いて、中枢神経が設定する温度を下げさせる効果があります。アメリカの育児書には体重1kg当たり15mgの「アセトアミノフェン」を推奨しており、8~16mg/kgが薬用量です。日本では体重1kgあたり10mgが一般的に用いられています。中毒量は140mg/kgと言われていますので、安全域が広い薬物です。何らかの理由でこれを用いることができない場合には「イブプロフェン」5mg/kgを用います。ただ、解熱をしても病気が治ったわけではないので、解熱に躍起になるのは禁物です。

発熱と受診

ヒブワクチン、肺炎球菌ワクチンなどの予防接種が普及して、高度侵襲性の細菌感染症が非常に少なくなりました。発熱があったからと言って慌てて救急診療を利用する必要がなくなりました。でも、新生児や生後8週未満の乳児の発熱、6カ月未満の乳児が震えを伴って急に発熱をするような場合には小児科医の診察を受けることをお勧めいたします。

発熱とけいれん

子どもの10%にけいれんを伴うことがあると先述しました。熱性けいれんと呼ばれるのは、中枢神経系に異状を認めない場合をいいます。しかし、けいれんが長いと呼吸が充分にできなくて、15分以上続くと低酸素血症になり二次的に中枢神経系に異状をもたらす可能性があります。救急車が来るまでの時間も考慮すると、5分を超えてけいれんが止まらない場合には救急車を呼んで受診することを考えて良いでしょう。また、けいれんが停止しても意識がなかなか戻らない、体のどこかにまひが残る場合なども受診をお勧めします。最初の有熱時のけいれんで、すぐにけいれん予防薬の座薬を使うことに、私は賛成できません。熱性けいれんを起こした子どもの50~75%が一生に一度しか起こらないのですが、確実に熱性けいれんでない場合には、薬を使うことで本来の病状を隠してしまい、正しい診断を遅らせてしまうことがあるからです。

発熱時の受診について

小児科のプライマリケアを受診される患者さんの受診理由の上位に、発熱があります。体温が高いほど重症というわけではありません。体温はそれ程高くなくても、グッタリして元気がないのは何が原因かを知る必要があります。体温が高くても、食欲もあり元気よく不機嫌でなければ重症ではありません。全体の感じから判断して受診のタイミングを考えて良いと思います。発熱を呈する疾患は沢山あります。原因が解らないのに安易に抗菌薬を使うのは、治療にならない上に、抗菌薬が効かない耐性菌を作ることになります。医療者としては、経過を詳しくお聞きする、丁寧に診察をする、必要に応じて検査を行うことで、発熱を呈する患者さんへの適切なケアが可能になります。それには、愛情をもってよく看てくださる保育者と医療者のコラボレーションが鍵になると考えています。

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