授乳中の乳腺炎
坂出市立病院 産婦人科部長 戸田千 MD. IBCLC
妊娠中に知っておきたいことのなかには、母乳育児中の乳腺炎もあります。
まず、もしかかっても乳腺炎の時も基本的に赤ちゃんに母乳をあげ続けられます。もし細菌感染があっても母乳の中にはその菌をやっつける多くの免疫物質が含まれているからです。
では乳腺炎はどんな病気で、どんな対応ができるのかをABM(Academy of breastfeeding medicine:母乳育児医学アカデミー)の臨床プロトコルを見てみましょう。
最後に:小児科医師に知っておいてもらいたいこと
ABMでは以下のように定義しています。
定義:”乳腺炎は通常、圧痛、熱感、腫脹のあるくさび形をした乳房の病変で、38.5℃以上の発熱、悪寒、インフルエンザ様の身体の痛み、および全身症状を伴うもの”
乳腺炎には3-20%の授乳中の人がかかると見積もられていて、産まれて6週間以内に多いですが授乳中ではいつでも起きます。
乳腺炎のきっかけはおっぱいで作られた母乳が流れ出にくくなることです。そこから母乳自体が周りのおっぱいの組織に漏れ出て炎症(発赤・熱感・腫脹・疼痛等)をおこすと、激しい悪寒や筋肉痛などのインフルエンザ様症状がおっぱいの症状以外にも出ます。重症になると抗菌剤が必要になります。症状が進んでおっぱいの中に膿が袋状にたまった膿瘍という状態になると治療は長引きます。乳腺炎の発熱も40℃前後まで上がることもあります。
作られた量と、おっぱいから出た母乳の量のアンバランスはどんなときに起きるのでしょうか。
◇ 作られた母乳が多い:搾りすぎ? 赤ちゃんの体調などで飲む量が減った?
◇ 作られた母乳が出ない:授乳の姿勢や赤ちゃんのくわえ方に無理は? 赤ちゃんが欲しいタイミングでの授乳? 授乳と授乳との間隔は? おっぱいを服やベルトなどで押しつけていない? 忙しくない?
母乳をおっぱいの外に出すホルモンのオキシトシンはストレスや疲れで出にくくなります。
今は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行で、発熱症状があると診察してくれる施設を探すのに苦労することもあります。まずは後ほどのQ&Aにある予防を重視した生活を第一に。
病院受診にまず大切なのは「乳腺炎を疑えるか」です。→ 疑ったら休む。→ 授乳を赤ちゃんの欲しがるタイミングと長さと回数で繰り返す。→ 子がくわえやすく母が楽な授乳姿勢を工夫する。→ 24時間以内に解熱して楽になれば受診せずにすみます。辛い時に助産院に相談する事も出来ます。
インフルエンザと授乳中の乳腺炎とを見分けるにはおっぱいをそっとそっと押さえた時の痛み、しこりのどちらかでもあれば乳腺炎かもしれません。症状が進むとおっぱいが赤くなることも。母乳の流れがゆっくりだと、赤ちゃんは元気でも不機嫌になることもあります。
痛みや熱の時に市販のイブやロキソニンは母乳に出にくい薬です。炎症を抑えるので、使用できる人では1つの選択肢です。痛みがとれてオキシトシンが出ると作られた母乳が出やすくなります。薬の1日量は守ります。
母乳が順調に流れ出ないのが乳腺炎の理由ならば、治療はその対策になります。
疲れやストレスはオキシトシンを妨げますので家事などを最低限にして、授乳さえ痛くなければ欲しがる回数だけ欲しがる長さの授乳ができると、多くの場合は数時間で問題が解決します。
24時間経っても熱が下がらない時は病院受診が必要です。乳首に傷がある人では黄色ブドウ球菌などの細菌が定着することがあるのでより注意が必要です。また母乳を外に出そうとしてしこりを強く押すのは、乳房膿瘍などに症状を進めかねないので避けます。
食事の変更ならすぐに実行できそうですよね。ところが残念なことに乳腺炎を予防したり治したりできる科学的根拠のある食べ物はまだないのです。
まず脂肪はどのように母乳に入るのでしょうか。母乳中の脂肪の多くは乳腺腺房細胞の中で作られて、細胞膜にくるまれた小さな脂肪球の形で母乳に入ります。脂肪球同士はくっつかず、サイズも母乳の通り道である乳管と比べものにならないほど小さいです。一般にお母さんが食べた脂肪は吸収されてすぐに母乳に入るわけではありません。脂肪の多い食事をとるとオキシトシンが出やすくなります。その時におっぱいが少し温かく感じられて張った感じがしたとしても詰まったわけではないです。乳管が詰まるというのは母乳が作られすぎるとか、押しつけられる・引っ張られる・ねじられる・浅くくわえる、窮屈な場所での授乳などで母乳自体の流れが邪魔された状態のことです。
母子の健康のためには妊娠前より1日350Kcal は余分に食べるように厚労省の授乳婦の栄養情報にも示されています。食べる総量が1500kcalより少なくなっても母乳量は減らずに母乳の成分だけが変わるだけです。
まず身体を休ませて、母乳をどんどん出すのが基本です。
もしラ・レーチェ・リーグのリーダーやIBCLC(国際認定ラクテーション・コンサルタント)が近くにいれば、よりよい授乳姿勢や赤ちゃんの吸着を一緒に探すお力になれます。新鮮で清潔で様々な食材を使った食事がとれることは健康に役立ちます。熱が出て食欲がなければ水分をいつもよりとることには気をつけます。ケーキや焼き肉は普通に食べて大丈夫です。
自分がつらい時に子どものために小児科に来た事を、医師などが褒めることでお母さんはエンパワーされます。母親のお熱が下がらないときには黄色ブドウ球菌などに感受性のある抗菌剤を10-14日分を消炎作用のあるイブプロフェンやロキソプロフェンなどとともに処方します。赤ちゃんにあげるようなドライシロップのある製剤だと母親も安心するかもしれません。母乳が出やすいようにリラックスして,制限なく授乳するよう勧めてあげてください。もし適切な授乳姿勢について以下の参考文献などをもとに情報提供できればさらに有効です。
母乳育児医学アカデミー 臨床プロトコル#4乳腺炎
https://jalc-net.jp/dl/ABM_4_2014.pdf (2021/07/08確認)
ラ・レーチェ・リーグの母乳何でも相談箱
https://llljapan.org/faq_category.php (2021/07/08確認)
戸田の母乳育児支援ブログ
https://smilehug.exblog.jp/26838128/
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