医学博士/保健師/健康気象アドバイザー/慶應義塾大学医学部神経内科非常勤講師
舟久保 恵美
猛暑、ゲリラ豪雨、“これまでに経験したことのないような大雨”などが私たちの心身にも影響を及ぼすことをご存知でしょうか。天気の変化によって起こる心身の不調を総称して「気象病」といいます。花粉症や熱中症も気象病です。雨が降る前に頭が痛くなったり、古傷が痛んだり、これは「天気痛」と呼ばれることもあります。これには気圧の変化が大きく関わっていることがわかっています。
私たちの研究で、実験的に慢性痛のラットを気圧が変えられる部屋に入れて、温度、湿度を一定に保ち、台風接近時相当に気圧を低下させたところ、慢性痛ラットの痛みが悪化することが明らかになり、耳の奥の「内耳」という器官が「気圧センサー」の役割をしていることがわかってきました。音や平衡感覚を伝える内耳で気圧変化をキャッチすると、とくに気圧が低下するときに、健康な人でも交感神経が刺激され、血圧・心拍数などの上昇が起こることがわかりました。気圧の影響を受けやすい人は、この交感神経への刺激によって、自律神経のバランスが乱れ、体のあらゆるところに不調が表れると考えられています。慢性的に体に痛みがある人は、もともと交感神経の活動が高まっていることがわかっていますので、気圧が低下すると、さらに交感神経が刺激され、痛みが増してしまうのです。
低気圧が近付くと頭痛が起きる方もいるかもしれません。頭痛には種類があるのをご存知ですか?タイプにより対処法が異なります。日常起こりやすい頭痛には「片頭痛」と「緊張型頭痛」があります。気圧は特に「片頭痛」の誘発要因として医師の間でもよく知られています。
「緊張型頭痛」は、肩・首周りなどの筋肉の緊張により起こります。ゆっくりお風呂に入って血流をよくすると頭痛が治るという人はこのタイプ。「片頭痛」の場合、温めることで痛みがひどくなるおそれがあります。
・お風呂に入って温めると痛みがとれる→「緊張型頭痛」
・お風呂に入って温めると痛みが増す→「片頭痛」
・光や音、匂いで痛みがひどくなる→「片頭痛」
・寝過ぎたときや、週末になると痛む→「片頭痛」
ズキズキ脈打つような痛みを感じる場合は、片頭痛のことが多いのですが、緊張型頭痛と片頭痛の混合型の人もいます。どちらのタイプかわからないときは冷やしてみることをお勧めします。頭痛は子どもでも起こります。天気の影響を受けて頭痛や身体のだるさなどの不調を訴えるお子さんもいます。決して怠けているわけではありません。
不調の起こりやすい急激な気圧低下を知らせてくれる「頭痛ーる」というアプリや、日本頭痛学会のホームページでは「頭痛ダイアリー」頭痛ダイアリーで頭痛を攻略│日本頭痛学会 (jhsnet.net)
が入手できるので、お子さんの不調と天気の関係を記録してみましょう。
・光…急に屋外に出たとき太陽の眩しい光で頭痛が誘発される。蛍光灯さえ眩しく感じられる。横断歩道の白いラインが眩しくて頭痛が起こる人もいます。サングラス、帽子などで保護しましょう。
・匂い…香水などで頭痛が引き起こされる。デパートの化粧品売り場などは大敵!柔軟剤の香りで頭痛が起こる場合も多い。
・気圧差…新幹線がトンネルを通過する際、気圧がどの程度変化するかご存知ですか?トンネル内で20 hPaも低下した区間がありました。台風が通過する時と同じ程度の気圧差が数秒の間に身体にかかるわけです。新幹線では窓側より通路側のほうが気圧変化が緩やかになります。
また、飛行機の機内の気圧は0.8気圧に維持されています。上空では、機内の気圧は地上より200 hPa低下します。あくびをする、ガムを噛むなどして耳抜きをしないと圧変化を解消できずに耳の圧迫感、中耳炎、頭痛が起こることもあります。飛行機での耳への影響は、離陸時より着陸時の方が強く感じられます。
飛行機や、新幹線・地下鉄のトンネル内などで、赤ちゃんが泣きだしてしまうことがありますが、赤ちゃんは大人よりも耳管が短く直線的で、気圧の変化を受けやすいので、痛みを感じていることも考えられます。大きいお子さんでしたら、飛行機の着陸時にはアメをなめるなどして対処できますが、赤ちゃんですと難しい場合もあります。乗り物でいつまでも泣き続けているときは、気圧の影響も考えてみてください。
気圧が1hPa下がると、潮位は約1cm上昇するといわれています。台風の中心気圧が960 hPa、台風通過前の気圧が1010 hPaだとすると、台風が通過する数時間の間に約50 hPa気圧が下がる、すなわち潮位は50センチメートル上昇するのです。それだけの圧力変化に人間は知らず知らずのうちに対応しているのです。
妊婦さんのなかには、低気圧が近付くとお腹が張るという人もいます。潮位がこれだけ変化するのですから体の約7割が水でできている人間の体にも気圧が影響するのも頷けます。健康な人は気圧変化に上手に対応できますが、体に不調があると気圧変化に対応しきれず心身に不調が現れるのです。天気の変化は避けられないですし、特に気圧の変化は目に見えませんが、天気予報をこまめにチェックして天気が悪くなりそうな日には、薬を持って出かける・無理なスケジュールを立てないなど備えておくことが大切です。
2023年12月12日配信
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